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東京地方裁判所 平成10年(ワ)30260号 判決

原告 株式会社整理回収機構

右代表者代表取締役 鬼追明夫

原告 中坊公平

右両名訴訟代理人弁護士 山川洋一郎

同 宮川勝之

同 篠塚力

同 山崎博

右原告中坊公平訴訟代理人弁護士 飯田和宏

被告 株式会社小学館

右代表者代表取締役 相賀昌弘

右訴訟代理人弁護士 原秀男

同 竹下正己

同 山本博毅

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は、平成一二年二月二四日終結した口頭弁論に基づき、次のとおり判決する。

主文

一  被告は、原告株式会社整理回収機構に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告中坊公平に対し、金六〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一本件請求

原告株式会社整理回収機構(旧商号・株式会社住宅債権管理機構)及び同会社の代表取締役社長であった原告中坊公平は、「被告は雑誌週刊ポスト等の雑誌、図書出版を業とするものであるところ、平成一〇年一二月七日発売の週刊ポスト一二月一八日号において、別紙『記事』記載の記事を掲載し、同月七日から同月九日にかけて、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、東京新聞、北海道新聞のほか多数の地方新聞紙に週刊ポスト一二月一八日号の広告を掲載したが、その広告には『追い立てを食った“善意の住民”が泣いている』『住管機構社長中坊公平氏はどう答えるのか』『さらなる重大問題が発覚』との見出し部分が含まれているところ、右記事の主要部分は、事実を歪曲したものであり、又は虚偽であって、右記事は被告の被用者により、作成、掲載されたものであり、右広告と相まって、原告らは、これによりその名誉及び信用を著しく毀損された」と主張して、被告に対し、民法七〇九条、 七一〇条、 七一五条及び 七二三条の規定に基づき、原告株式会社整理回収機構においてはこれにより被った無形損害の賠償として、原告中坊公平においては慰謝料として、それぞれ一〇〇〇万円ずつ及び右各金員に対する右不法行為の日である平成一〇年一二月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、別紙<1>記載のとおりの謝罪広告を別紙<2>記載の仕様にて、別紙<3>の各雑誌及び新聞紙上に一回掲載することを求めている。

第二事案の概要

一  当事者間に争いがない事実及び確実な書証により明らかに認められる事実

1(一)  原告株式会社整理回収機構(原告会社という。)は、旧商号を住宅金融債権管理機構(住管機構という。)といい、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法(平成八年法律第九三号)に基づき、同法二条二項に規定された特定住宅金融専門会社から譲り受けた貸付債権その他の財産の管理、回収及び処分等を業とする目的で、平成八年七月二六日に設立された株式会社である。原告中坊公平(原告中坊という。)は、原告会社設立以来その代表取締役社長の地位にあったが、平成一一年八月二日に代表取締役社長を退任したものである。

(二)  被告は、雑誌・図書出版等を業とする株式会社である。被告の発行する「週刊ポスト」は、現在我が国における週刊誌において最大の発行部数を誇り、その発行数は、九八万部とも推定されている。

2(一)  札幌市中央区南七条西七丁目四番地所在の一一階建ての賃貸用マンション「ドミローレル第十記念マンション」(本件マンションという。)は、訴外内山建物株式会社(内山建物という。)所有であったが、札幌地方裁判所は、平成九年九月一八日原告会社の申立てにより競売開始決定をし、同月一九日差押登記(本件差押登記という。)が経由された。原告会社は、右競売手続において同裁判所より売却許可を受け、平成一〇年三月二三日本件マンションの所有権を取得し、同日競売による売却を原因とする所有権移転登記を経由した。

(二)  原告会社は、同年四月一日訴外株式会社ビッグサービス(訴外会社という。)との間で管理委託契約(本件管理委託契約という。)を締結して、入居者の募集管理、賃貸借契約に関する業務、賃料・共益費等の請求及び受領、督促業務、苦情処理、更新手続、賃借人の解約時の諸手続、修理手続等の本件マンションの賃貸管理に関する業務を訴外会社に委託した。

3  被告は、平成一〇年一二月七日発売(北海道内は、同月九日発売)の一二月一八日付け「週刊ポスト」において、「本誌が問題提起した住管機構『自己競落』にさらなる重大問題発覚!」「追い立てを食った“善意の住民”が泣いている」「たとえば札幌のケースではこんな事態が……」「住管機構社長中坊公平氏はどう答えるのか!?」との見出しのもとに、三ページにわたる別紙「記事」記載の記事(本件記事という。)を掲載した。

(一) 本件記事は、まず、そのリード部分において、

「順風満帆であるかに報じられる同社の不良債権回収作業のプロセスに、いわゆる『自己競落』の手段を通じた水増し疑惑がある。」「……この問題の根は深い。」「『自己競落』の背後に、同社を巨大な不動産会社化しようという“中坊ビジョン”が控えているからだ。」「強大な権力を持つ組織がひとたびマシーンとして動き出した時、本来の標的とは全く別の“善意の弱者”が有無をいわさず押し潰されようとしている。本誌が一連の取材で掴んだ北海道・札幌のケースは、まさにその典型である。」とした上、中見出しを「住民をA~Dにランク分け」として、以下の記述をしている。

<1> 「中坊公平氏が率いる住宅金融債権管理機構が極めて悪質な人権侵害と差別を行っている。住管機構は自己競落した札幌のマンション住民の前科や前歴、職業、個々人の借金の額まで調べあげ、それによって住民をランク分けし、追い出しにかかっている-。」

<2> 「ところが、住管機構に所有権が移った途端、同社は暴力団を排除するどころか、一般住民を強引な方法で追い出しにかかり、次々と退去させているのである。」

<3> 「さらに、その身上調査をもとに、住管機構は住民をA~Dの四段階に分けて、契約更新の交渉などの際に明らかに差別しているのである。」

<4> 「住民のプライバシーをいたずらに暴き、民間の管理会社にまで筒抜けにしているのは、明らかな人権侵害であり、まさに差別としかいいようがない。」

(二) また、中見出しで、「敷金の追加要求で追い出し」として、更に次の記述をしている。

<5> 「住管機構はそうした住民調査をもとに、一般住民から追い出しにかかった。」

<6> 「そういうことであれば、敷金の追加は、住民を追い出すための口実だったと疑われても仕方がない。」

<7> 「ススキノでスナックを経営する別の住民は露骨な嫌がらせでマンションを追い出された。」

(三) また、「中坊氏がベンツを連ねて視察」の中見出しのもと、「不動産問題に詳しい中殿政男弁護士が、賃貸契約の原則をこう指摘する。」として、「賃借人が建物の差押えなど強制執行の前から住んでいる場合、旧所有者との契約はそのまま新しい所有者との間で引き継がれます。そもそも契約を結び直す必要はない。家賃の引き上げや敷金の追加の要求があっても、賃借人が納得して契約を改めるのが前提で、納得できずに応じなくても、新しい所有者が一方的に立ち退きを強制することはできない」との中殿政男弁護士(中殿弁護士という。)の見解を記載し、その上で、次の記述をしている。

<8> 「つまり、法的には住管機構側が強制的に一般住民を追い出すことはできないことになっている。だが、現実には、住管機構は同マンションを自己競落した後、暴力団関係者こそ排除しなければならないのに、逆に嫌がらせや『値上げに応じなければ退去』という恫喝など強圧的な手口で一般住民を追い出しにかかっている。これはいったいどういうことなのか。」

<9> 「住管機構が強制調査権を持っていることを利用して住民の人権を侵害し、債務者とは何の関係もない住民を追い出しているとしたら、まさに相手が違う。中坊氏は根本から作業の進め方を考え直すべきだろう。」

(四) 更に、本件記事は、「賃貸借契約の継続について」と題する文書を写真にて掲載した解説として、<10>「住民には賃借権が保証されているはずなのに、なぜか『契約継続の条件』が通告された。」との記述をしている。

4  被告は、平成一〇年一二月七日から同月九日にかけ、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、日本経済新聞、東京新聞、北海道新聞のほか多数の地方新聞紙に週刊ポスト一二月一八日号の広告を掲載したが、その広告には「追い立てを食った“善意の住民”が泣いている」「住管機構社長中坊公平氏はどう答えるのか」「さらなる重大問題が発覚」との見出し部分が含まれている。

5  本件記事は、公的な機関ともいうべき原告会社の業務遂行の実態について報道しており、公共の利害に関する事実に係るものであって、被告は、公益を図る目的で本件記事を掲載した。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

1  争点一

本件記事は、原告らの名誉を毀損するものか、否か。

(一) 原告らの主張

(1)  本件記事は、見出しにおいて、「『自己競落』にさらなる重大問題発覚!」「追い立てを食った“善意の住民”が泣いている」とした上、その事実摘示を要約すると、「原告会社が自己競落した本件マンションの住民につき、暴力団の所属、前科・前歴、負債額などを調べて詳細な《身上調査資料》を作成し、本件マンションの管理を委託していた民間管理会社に渡していた」、「右身上調査を基に住民をA~Dの四段階に分けて、ランク分けして住民のプライバシーをいたずらに暴き、これを民間の管理会社にまで筒抜けにして、契約更新の交渉などの際に極めて悪質な人権侵害と差別を行っている」、「法的には原告会社が強制的に一般住民を追い出すことはできないことになっているにもかかわらず、嫌がらせや恫喝など強圧的な手口で追い出しを図っている」とするものである。

(2)  右(1) の各事実を摘示して行われた本件記事による報道によって、読者は原告会社が本件記事の記載の如き「人権侵害」と「差別」を行っている旨の印象を受けるところとなった。右により、原告会社はその業務における公正及び清廉さに係る社会的評価が低下させられたものであり、右報道が原告会社の名誉と信用を毀損することは明らかである。

(3)  また、本件記事は、見開き左側の頁の四分の一近くもの大きさで原告中坊の写真を掲載し、「中坊公平氏はどう答えるのか!?」との縦書きの見出しを付してまず読者の注意を引き、本文では「『中坊公平氏が率いる』住宅金融債権管理機構」と書き出して原告会社が人権侵害と差別を行ったとして事実を摘示し、原告中坊が本件マンションの競売申立ての際に現地視察を行った旨を摘示している。その他、そのリード部分では、“中坊ビジョン”なる記載をしている。本件記事は、右の各記述により、原告中坊が業務全般の指揮を執る原告会社が極めて悪質な人権侵害及び差別を行ったとの印象を読者に与えることによって、原告中坊の社会的評価を低下させ、その名誉を著しく毀損している。

(二) 被告の主張

原告らの右主張は争う。

(1)  原告会社は、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法をもって設立された株式会社であるが、預金保険機構の一〇〇パーセント子会社であり、極めて公共性の強い公的機関である。本件記事は、公的機関である原告会社の業務執行について、その運営方針を批判したものである。このような機関の活動に対する批判は、民主主義の根幹をなすものであり、言論の自由が最も保護されなければならないところである。国民の税金によって資金拠出される組織の活動について、真実であることを証明しない限り批判ができないというのでは、民主主義の根幹にかかわる自由闊達な言論の応酬ができなくなる。このように言論による自由な批判にさらされるべき公的機関に、裁判によって保護されるべき名誉は、元々想定されておらず、原告会社は、本件記事を不法行為であるとして裁判所の保護を求めることはできない。

仮に、原告会社にそのような保護されるべき名誉が存在するとしても、被告がその業務について行った批判は、その受忍すべき限度内にあるものというべきである。

(2)  原告中坊は、原告会社の代表取締役であるから、公的な機関の代表者として、右(1) に述べたことと同様の指摘ができることはいうまでもない。

加えて、会社の名誉毀損で代表者の名誉が毀損されることはない。法人に対する名誉毀損の攻撃が同時に代表者に対する名誉毀損を構成するとの評価をするためには、その加害行為が実質的には代表者に対しても向けられていることが必要である。しかし、本件記事は、本件マンションで「追い立てを食っている善意の住民が泣かされている」という事実の報道であり、この追い立ての事実と前科等のプライバシー侵害を具体的な事実として摘示した記事である。本件記事には、これらの事実について、原告中坊が指導したとか、指揮したとかという記述はなく、具体的な行為を原告中坊に結びつけるものは全くないのである。本件記事による「加害行為」は原告中坊に向けられたものであるということはできないから、本件記事により原告中坊に対する名誉毀損が成立する余地はない。

2  争点二

本件記事により摘示された主要な事実は真実か、否か。

(一) 被告の主張

本件記事の主要な事実は、真実である。

(1)  居住者のプライバシー情報の収集及び「身上調査資料」の作成について

ア 原告会社は、本件マンションの居住者について、その前科や暴力団への所属、負債額等のプライバシーに該当する情報を収集した上、このような情報を記載し、居住者ごとにABCDの記号が付され、欄外にその表示の説明があって、明らかに社会的身分によって居住者をランク分けした資料を作成し、これらの資料を本件マンションの管理を委託した訴外会社に交付し、その職員に所持させていた。したがって、前記第二の一の3(一)<1>、<3>及び<4>の記述(これらを<1>の記述というようにいう。以下、この例に倣う。)は真実である。そして、右は、どの一つをとっても明らかな人権侵害であるといっても差し支えない。特に、前科について右のような行為があったことをもって「極めて悪質」であると評価して不当ということはできない。

イ 仮に、原告会社が自ら前科等の記載された右資料を作成しておらず、訴外会社がこれを作成したものであるとしても、原告会社は、管理受託者である訴外会社がこのような前科情報等を収集していることを認識しながら、これを放置し、黙認していたのであるから、公的性格の強い原告会社の責任は重大であり、原告会社も共同して作成したと同視できるのであり、訴外会社の行為について原告会社が同様の批判を受けてもやむを得ない。したがって、これを原告会社が行ったものとして報道したとしても、その事実は真実であるといってよい。

(2)  住民の追い出しについて

ア 事例一(本件記事二五九ページ三段目以下)の訴外館山和紀(館山という。)に対して、原告会社は、一旦は敷金の支払を求めながら、館山がその支払を強く争うとこれを免除し、館山に対する敷金返還債務を承継しないのに、その退去に際して敷金を返還した。これは、敷金支払を求める原告会社の実際の運用が必ずしも法的基準によるものでなかったことを意味しており、原告会社が敷金の追加請求を住民の追い立ての口実に使っていたことを物語るものである。

イ 事例二(本件記事二六〇ページ一段目末尾以下)の老夫婦乙は、本件差押登記経由後に本件マンションに居住を開始したが、原告会社は乙に対して敷金の追加支払を要求し、乙夫婦はこの請求を受けて本件マンションを退去した。事例一及び二を比較すると、敷金の追加請求は、気の弱い住民を退去させる第一の武器となっていたといわざるを得ない。

ウ 事例三(本件記事二五九ページ四段目末尾以下)の吉田孝子(吉田という。)について、従前の管理会社である内山建物は、吉田が本件マンション内のより広い部屋に移ることを希望すると、広い部屋に空きができたときに移ることを承諾していたが、原告会社はこれを拒絶した。また、内山建物は、本件マンションの一階に管理人を常駐させ、深夜に鍵を忘れて帰宅しても、直ちに合鍵で解錠してくれたのに、原告会社の委託した訴外会社は、一〇分以上待たせた上に二〇〇〇円の手数料及び消費税一〇〇円を徴収した。吉田はこのような対応を原告会社の嫌がらせと判断して退去したが、原告会社は本件マンションを自己競落で取得し、賃貸人たる地位についたのであるから、原告会社及び訴外会社の対応は、管理水準の一方的な引き下げであり、賃借人に対する義務の履行に欠けるところがあったといわざるを得ず、吉田が原告会社の嫌がらせとの印象を受けたのもやむを得ないといわなければならない。

エ 事例四(本件記事二六〇ページ二段目以降)の福島範子(福島という。)は、平成九年七月一五日に賃料月額五万円を毎月末日限り翌月分を支払うとの約定で、期間を二年として賃借したものであり、原告会社の所有権取得時には、期間満了前の短期賃借人として、その賃借権を原告会社に対抗できる関係にあった。五万円という賃料も、入居した部屋が、過去三度の自殺未遂事件があったところで、室内は荒れ、賃借人の募集ができなかったので、内山建物の要請により、月額五万円の賃料(管理費込み)で入居したのである。原告会社は、法的には疑問のある遡っての家賃増額請求で福島に精神的圧迫を加え、その後も賃料の支払を継続しようとする同人に対して、協議に応じようとせず困惑させ続けるという極めて不誠実な対応に終始した。これは福島が内山建物の従業員であったことを理由に差別をしていたと考えられ、このような原告会社の姿勢は、「賃料値上げに応じなければ退去」という脅かしであり、強圧的な手段での明渡し要求であると評価しても差し支えない。

オ このようにして、本件マンションからの退去者が相次いだ。そうすると、原告会社は、敷金の追加支払の請求、賃料の増額請求や嫌がらせと評価することができる行為により、暴力団ではない普通の住民を追い立てていたことが明らかであるというべきである。したがって、<2>、<5>、<6>、<7>、<9>、<10>の各記述は真実である。

(3)  賃借権が保護されている旨の記述について

一般の強制競売を前提とした「家賃の引き上げや敷金の追加の要求があっても、賃借人が納得して契約を改めるのが前提で、納得できずに追加や値上げに応じなくても新しい所有者が一方的に立ち退きを強制することはできない。」との中殿弁護士の見解に基づき、「法的には、住管機構が強制的に一般住民を追い出すことができないことになっている。」とした記述は、前提が任意競売ではないため、正確ではなかったと認めざるを得ない。しかし、本件記事が指摘する問題は、原告会社が善意の居住者に対して、敷金の追加請求を行い、困らせて退去させている、善意の住民を泣かせているという事実なのである。右の「法的には、住管機構が強制的に一般住民を追い出すことができないことになっている。」という記述箇所は、敷金の追加請求拒否というより、むしろ、前後の文脈から、その後に続く「法的に保護される一般住民」について、「嫌がらせや『値上げに応じなければ退去』という恫喝など強圧的手口で一般住民を追い出しにかかっている。」という箇所に重点があるのである。すなわち、「明渡しを強制できない一般住民にいやがらせ等の手口で追い出しにかかっている」という記述である。しかして、この点が真実であることは前記のとおりである。

善意の住民に対する敷金の追加要求があり、しかもこれが「追い出しの口実に使っている」といわざるを得ないことは前記のとおりである。しかも、この記述は、善意の住民が泣いている事例の最初の事例に関するものとして記載されたものであり、そこにおいては、占有権原の有無は問題とされていないのである。

(二) 原告らの主張

本件記事の主要な事実が真実であるとの被告の主張は争う。

(1)  被告の主張(1) について

原告会社は、本件記事に掲載されたような身上調査なるものを行ったことはないし、その調査に基づいて身上調査資料なるものを作成したこともない。したがって、原告会社が身上調査資料を訴外会社に交付したこともない。なお、訴外会社が居住者の一人の前科、数人の暴力団関係者と特定し得る資料を作成したことは認める。また、居住者のうち数名につき、前科がある者がいたこと、暴力団員が入居していることを原告会社は知ったが、訴外会社において、日々管理業務で起こった要注意事項を適宜原告会社に報告する中で知ったものである。

原告会社は、身上調査をしていないのであるから、これを基にした居住者の分類をしたことはない。原告会社が、住民全員の詳細な身上調査資料をもとに、A~Dにランク付けして追い出しにかかったというのは虚偽又は明らかに事実を歪曲している。すなわち、本件マンションの管理については、原告会社札幌支店従業員と弁護士七名でチームを作り法的問題を中心に慎重に検討を重ねながら対応し、通常の管理については訴外会社に委託したが、右チームにおいて、競落人と居住者との間の賃貸借契約における権利義務を明確に把握し、住民に対し公平で法秩序に則った処理を実施するため、賃貸借契約締結の時点に応じてAからEの五つのタイプに分類したのであり、住民にランク付けをしたことはない。

(2)  被告の主張(2) について

原告会社が、従前から敷金を差し入れている賃借権が保証されているはずの居住者に対し、敷金の追加を要求し、いわれのない追い出しを図ったとする点も、虚偽又は事実を歪曲するものである。

自己競落当時の入居数は全八四戸で、そのうちの五五戸は、原告会社に当然に賃貸借契約が引き継がれるものであったことから、新たな賃貸借契約書を要求したことも、敷金を要求したこともない。したがって、本件記事がこれらを指すとすると、明らかな虚偽の記事である。入居数全八四戸のうち、二四戸の賃借権は原告会社に引き継がれないものであり、特にそのうちの二〇戸は競売差押登記後に設定された賃借権であった。そこで、これらの賃借人については、新たな敷金の差し入れを前提に新賃貸借契約を締結する方針で、訴外会社において各居住者と交渉を始めたものである。これは、追加要求ではなく新たな賃貸借契約締結の申出である。したがって、この事実をもって敷金の追加要求で追い出したなどと記載するのは誤りである。

事例一から四に関する本件記事の記載も、いずれも虚偽又は事実を歪曲するものである。

したがって、<2>、<5>、<6>、<7>、<9>、<10>の各記述は真実ではなく、事実を歪曲したものであり、本件記事の主要部分は、事実を歪曲し、又は虚偽であることが明白である。

(3)  被告の主張(3) は争う。

3  争点三

被告において、原告会社が前科等の記載された資料を作成したとの事実及び「法的には、住管機構が強制的に一般住民を追い出すことができないことになっている。」ということを真実であると信じるについて、相当な理由があったか、否か。

(一) 被告の主張

(1)  仮に、原告会社が前科等の記載された資料を作成したとの事実が真実でなかったとしても、被告が右事実を真実であると信じるについては、相当の理由があったというべきである。

ア 人の前科は、通常分かることではない。暴力団関係者についても、外見上それらしく見えるということと、特定の組織の構成員であり、その組織の中での役職が何であるか等は全く別のことであり、後者の情報は一般に知られることはない。警察関係者から特別に開示されない限りは、絶対に判明しないことである。また、警察関係者が、一般民間人にこれらの情報を開示することもない。これらはあまりにも明らかな常識である。また、個人に債務があるか否かも当然に分かることではない。不動産登記簿に債務者として表示された担保権の登記があれば公示されたことになるが、そのようなことは直ちに分かることではない。また、いわゆる高利貸しやサラ金業者が督促に来れば、嫌でも周囲で判明することはあり得るが、資料に記載があったという人物には、そのような事象はなかった。

イ しかるところ、原告会社は、周知のとおり、警察関係者が社内におり、警察の情報の開示を受けたり、これに接触する機会がある。また、正式には預金保険機構が行うことであるが、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法には、預金保険機構が特定住宅金融専門会社の債権回収のために警察にも協力を求めることができる旨規定されているのである。本件マンションの原告中坊の視察についても、北海道警察から案内を受けたり警護を受けるなどしており、密接な関係があったのである。

ウ 右アの情報は、一般の不動産管理会社では、到底知り得ないものであり、原告会社の如き特殊な立場の団体でない限り、分かるはずのないことなのである。そうであるとすれば、原告会社が平成一〇年三月二三日に自己競落した本件マンションに関連して、所有権取得から間もない同年六月ころの時点において、極秘情報の含まれた詳細な資料を作成することは、一般の民間業者のよくなし得るところとは思われないことからすれば、原告会社が自ら競落した本件マンション管理のために、このような情報を収集して資料を作成したものと判断するのが世間一般の常識から見てごく普通のことであるといえる。

エ しかも、原告会社は、被告編集部から所有不動産の運営について取材したい旨の申し入れを受けながら、これを拒否した。原告会社が取材に応じれば、原告会社が資料を作成したかどうかの究明が可能だった。

オ したがって、仮に、原告会社が前記資料を作成したとの事実が真実でなかったとしても、被告においてそのように信じたことに相当な理由があったものというべきである。

(2)  仮に、<8>の記述について、占有権原の存否が真実立証の対象であるとしても、被告には、一般の強制競売を前提とした中殿弁護士の見解に基づき、「法的には、住管機構が強制的に一般住民を追い出すことができないことになっている。」ということを真実と信じるについて相当な理由があった。

ア 本件記事の誤りは、本件の競売手続が担保権の実行として申し立てられた不動産競売事件であるにもかかわらず、取材に当たった記者が中殿弁護士に対して「強制執行」として質問したことに起因している。法律家でない一般人が通常用いる日常語で強制執行といえば「判決等で確定した私法上の請求権を国家権力により強制的に実現することを目的とする法律上の手段」(例えば広辞苑)と理解されており、世間一般の人はこの意味の「強制執行」と担保権の実行としての不動産競売を区別して認識することはないといってよい。そうであるとすれば、記者が本件競売を強制執行と表現して弁護士に質問したことは間違いであり、遺憾なことであるが、強く非難されるべきことではない。したがって、仮に、「賃借権が保証された」とする記載部分が名誉毀損の度合いを深め、それが誤りであったとしても、元々真実であると信ずべき相当な理由があったというべきである。

イ 加えて、原告会社は、右(1) のとおり、被告編集部の取材申込を拒否したのであるところ、原告会社が取材に応じていさえすれば、簡単に回避できた誤解であったといえるのであるから、取材を拒否した原告会社がこの点について被告を非難することはできない。

(二) 原告らの主張

被告が右各事実を真実と信じるについて相当な理由があったという被告の主張は争う。

4  争点四

原告らに生じた損害の有無及びその多寡、並びに損害回復の方法如何。

(一) 原告らの主張

(1)  被告は、本件記事を、九八万部もの発行部数を誇る「週刊ポスト」に掲載した。このため、原告らは、著しく名誉と信用を毀損された。右不法行為により原告らが被った精神的損害(原告会社については、無形の損害。)を金銭に見積もれば、原告らにつきそれぞれ一〇〇〇万円を下らない。

(2)  原告会社は、原告中坊の指揮の下で一〇八〇名もの従業員を擁して一五万一〇〇〇人の債務者を対象に日々大量の回収業務を行ってきている(原告中坊は、平成一一年八月二日退任。)。原告会社が平成八年一〇月一日の設立以来、平成一〇年九月末までの二年間に一兆二五〇〇億円もの債権回収の成果をあげ、国民の高い評価を得ることができたのは、国民一般及び多数の債務者の、原告会社による公正かつ清廉な回収業務に対する強い信頼があったからである。本件記事は、原告らの回収の原点ともいうべき右の信頼を破壊し、特に、原告会社札幌支店で回収業務に携わる従業員が積み上げてきた地元住民の信頼を著しく損なうものである。したがって、原告らの業務遂行における右のような特質に鑑みれば、本件記事による名誉毀損に対し、毀損された名誉と信用を回復するため、本件記事が虚偽であったことを被告会社自らが認め、原告らに謝罪する旨を広告させる必要がある。

(二) 被告の主張

原告らの右主張は争う。

三  証拠関係

証拠の関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第三争点に対する判断

以下の判断において、本件記事の記述内容に関する事実は、すべて、前記第二の一の3及び甲第一号証から認められるものである。

一  原告会社及び原告中坊について

前記第二の一の1(一)に認定の事実に乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし八、第五号証及び弁論の全趣旨を併せれば、いわゆるバブル経済の崩壊により、住宅金融専門会社の中には貸付債権の回収が困難になり、多額の回収不能の債権を抱えて財務状況が著しく悪化した会社も現れたこと、これによって我が国における金融の機能に対する内外の信頼が大きく低下するとともに、信用秩序の維持に重大な支障が生じることになることが懸念されるとして、信用秩序の維持と預金者等の保護を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的として、特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法が制定され、同法に基づいて、特定住宅金融専門会社から貸付債権等の譲渡を受けてその回収等の処理を行う原告会社が設立されたこと、原告会社の設立時の資本金二〇〇〇億円は預金保険機構が全額を出資したが、預金保険機構に対しては政府が出資をしていること(預金保険法五条一項)、及び、右の原告会社の設立の経緯やその目的、業務の遂行状況、更には原告会社の代表取締役に原告中坊が就任したことについては広く報道され、一般に広く知られるところであり、原告中坊も原告会社の活動に関してマスコミを通じて積極的に発言していたことが認められる。

二  争点一について

1  不法行為の被侵害利益としての名誉(民法七一〇条、 七二三条)とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことである。そして、一般に、ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最高裁判所昭和二九年(オ)第六三四号、同三一年七月二〇日第二小法廷判決・民集一〇巻八号一〇五九頁参照)。

2(一)  本件記事の見出し、中見出し、リード部分及び本文記事の内容は、前記第二の一の3のとおりである。このような記述を含む本件記事は、一般の読者に対し、原告会社が、競売手続で所有権を取得した本件マンションにおいて、その住民につき、暴力団への所属、前科・前歴、負債額などのプライバシーに該当する事項を調査し、これを記載した「身上調査資料」を作成し、これを訴外会社に渡して住民のプライバシーを筒抜けにさせているとか、右調査結果に基づいて住民をランク分けして、契約更新等の際に右ランクに基づく差別をしたり、強引な方法、露骨な嫌がらせ、恫喝などの手段を用いて住民を追い出しにかかるというように、人権侵害と差別にあたる行為をして、「善意の住民」、すなわち一般の住民を泣かせているとの印象を与え、原告会社の社会的評価を低下させ、信用を毀損したといえる(右の「善意の住民」という表現は、一般には「善意」の語は善良な心、あるいは他者への好意の意味に解されるといえること、及び、本件記事のリード部分で「善意の弱者」という表現が用いられており、本文中には「依然として暴力団関係者は残っており、追い出された住民の多くは一般の人々だった。」「住管機構は同マンションを自己競落した後、暴力団関係者こそ排除しなければならないのに、逆に嫌がらせや…(中略)恫喝など強圧的な手口で一般住民を追い出しにかかっている。」という記述があることから、一般の読者は、これを「暴力団関係者でない一般の住民」の意味に理解するといえる。)。

また、本件記事は、原告会社が敷金の追加支払請求や嫌がらせを用いて住民を追い出したという具体的事例を紹介した後、原告会社は住民に賃貸借契約の変更や退去を一方的に迫ることができるのか、と問題を提起した上で、「不動産問題に詳しい」中殿弁護士の見解のかたちで前記第二の一の3の(三)に掲げた記述を載せ、引き続いて<8>の記述を記載しており、この<8>の記述は、原告会社は、法的には強制的に一般住民を追い出すことはできないのに、現実には嫌がらせや恫喝など強圧的な手口で一般住民を追い出しにかかっているという内容である。そして、本件記事の冒頭のページに掲載された写真の下の説明文では、「住民には賃借権が保証されているはずなのに、なぜか『契約継続の条件』が通告された。」と記載されている。このような本件記事を通読した一般の読者は、原告会社は、法的には本件マンションの住民を退去させることができないにもかかわらず、敷金の追加支払請求や嫌がらせ、恫喝等の強制的手段を用いて、住民を追い出しているという印象を受けるといえる。法的には退去させることができないのに退去させた旨の記述は、原告会社が違法な行為をしているとの印象を読者に与え、原告会社の社会的評価をより大きく低下させるといえる。この点、<8>の記述の中では、「嫌がらせ」や「恫喝」による「追い出し」のみを挙げており、敷金の追加支払の請求による「追い出し」を挙げてはいないが、そうであるからといって、<8>の記述に至るまでの本件記事の構成が前記のとおりである以上、一般の読者が、住民がその賃借権を保護されているとの記述と、敷金の追加支払請求による追い出しとを結びつけて考えないとはいえない。

(二)  被告は、原告会社は極めて公共性の強い機関であり、このような公的機関の活動について真実であることを証明しない限り批判ができないというのでは言論の自由が制限されることになるとか、原告会社のような公的機関は言論の自由な批判にさらされるべきであって、裁判によって保護されるべき名誉は想定されていないと主張する。

しかし、仮にある法人が公共性の強い機関であっても、当該法人に社会的評価たる名誉・信用が存在することはいうまでもない。このような機関の活動に関する批判が表現の自由、言論の自由の範疇に含まれることはそのとおりであるが、公共性の強い機関に対する批判は真実性の証明は不要ということになれば、結果として、そのような批判としてならば、真実であろうとなかろうと何を言ってもよく、表現者は自己の発言や表現に対して責任も負わないということになるが、これが不当であるのは明らかである。被告の右主張は採用の限りではない。

3(一)  また、本件記事は、その二ページ目の左中央部に原告中坊の写真を掲載し、その右横、すなわち同ページの中央部に、縦一・八センチメートル、横二・三センチメートル(甲第一号証により認められる。)という大きなゴシック体の活字で「中坊公平氏はどう答えるのか!?」との縦書き二行の見出しを付しており、リード部分で、「『自己競落』の背後に、同社を巨大な不動産会社化しようという“中坊ビジョン”が控えているからだ。そして、巨大な権力を持つ組織がひとたびマシーンとして動き出した時、本来の標的とはまったく別の“善意の弱者”が有無をいわさず押し潰されようとしている。」と記載し、本文記事の冒頭で「中坊公平氏が率いる住宅金融債権管理機構が極めて悪質な人権侵害と差別を行っている。」と書き出し、本文記事の末尾部分では、原告中坊のマスコミを通じての従前の発言を引用し、原告会社の活動が原告中坊の右発言の趣旨に合致しないと批判した上で、「中坊氏は根本から作業の進め方を考え直すべきだろう。」と記事を締めくくっている。更に、前記第三の一に認定の事実に甲第一号証、第一五号証、第一七号証、乙第二号証の五ないし七及び弁論の全趣旨を併せれば、本件記事掲載当時、原告中坊は原告会社の代表取締役社長としての知名度が高く、一般的に原告会社と原告中坊とは強く関連づけて認識されていたことが認められる。以上によれば、本件記事は、一般の読者に対し、原告中坊が活動の指揮を執る原告会社が、人権侵害や差別、「弱者」の不当な追い出しを行っているとの印象、更に、原告会社がそのような行為を行っていることについては原告中坊にも責があるという印象を与え、原告中坊の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損したといえる。

(二)  被告は、原告中坊は、公的な機関である原告会社の代表者であるから、裁判によって保護される名誉はそもそも想定されていない旨の主張をするが、前記2の(二)と同様、右主張は採用することができない。

また、被告は、法人に対する名誉毀損が同時に代表者に対する名誉毀損をも構成するというためには、その加害行為が実質的には代表者に対しても向けられていることが必要であるところ、本件記事による「加害行為」は原告中坊に向けられていないから、同原告に対する名誉毀損は成立しない旨の主張をする。

確かに、本件記事には、「人権侵害」「差別」あるいは「『弱者』の追い出し」等を原告中坊が直接指示した旨の記述はない。しかし、前記(一)に掲げたとおり、本件記事においては、原告会社の代表取締役として原告中坊の名を何度も登場させているし、原告中坊の写真を大きく掲載し、見出しに大きく「中坊公平氏はどう答えるのか!?」と掲げ、本文記事を「中坊公平氏が率いる住宅金融債権管理機構が……」と始め、「中坊氏は根本から作業の進め方を考え直すべきであろう。」と締めくくっているという記事の形式や表現方法に照らせば、本件記事は、一般の読者に対して、原告中坊が、同記事で問題とした原告会社の行為について責任があるという印象を与えるといえ、名誉毀損にあたる行為が原告会社のみならず原告中坊に対しても向けられているというべきである。よって、被告の前記主張は採用することができない。

4  したがって、争点一に関する原告らの主張は理由がある。

三  争点二について

1  不法行為たる名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り、もっぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、また、仮に右事実が真実であると証明されなくても、その行為者においてその事実を真実であると信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しないと解するのが相当である。

そして、本件記事が公共の利害に関する事実に係ること、及び被告の名誉毀損行為がもっぱら公益を図る目的に出たことについては争いがない。

2  住民のプライバシーの調査及び「身上調査資料」の作成についての真実性

(一) 原告会社が、本件マンションの住民について、暴力団への所属、前科・前歴、負債額など個人のプライバシーに該当する事項を調査し、これに基づいて住民をランク分けし、右調査事項とランクを記載した「身上調査資料」を作成し、これを訴外会社に渡して住民のプライバシーを筒抜けにさせている旨の記事の内容の真実性に関して、三井直也(三井という。)が、乙第二二号証(同人作成の陳述書)及びその証人尋問において、武冨薫(武冨という。)がその証人尋問において、それぞれ、「身上調査資料」は原告会社が作成したものと考えている旨供述するが、これは、当該資料に記載のある前科や暴力団への所属等の事実は通常では知ることができないし、本件マンションを管理する原告会社にはかかる資料を作成する動機があると判断したことからの推測にすぎない。また、武冨は、その証人尋問において、同人が取材した本件マンションの住民である伴健一郎(伴という。)及び本橋正夫(本橋という。)が、「身上調査資料」は原告会社が作成したと述べたと供述するが、そのことを根拠づける事実については何も述べていないのであって、乙第一八号証の一においても本橋は、そのように思っていた旨述べているにすぎず、「こんな調査ができるのは住管だけだと思っていた」ことからの推測にすぎないことが明らかである。よって、前記各証拠によっては、原告会社が住民のプライバシーに関わる事項を調査し、これらを記載した「身上調査資料」を作成したとの記事の内容が真実であると認めることはできず、他にこれを真実と認めるに足りる証拠はない。

(二) むしろ、住民のランク分けについては、甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、原告会社の代理人は、本件マンションの住民に関し、賃貸借契約を原告会社が取得した根抵当権の設定の前に締結し、かつ引渡しも了している者をAタイプ、賃貸借契約締結が右根抵当権設定後、本件差押登記の前であり、右登記以前に契約更新が終了している者をBタイプ、賃貸借契約締結が右根抵当権設定後、本件差押登記の前であり、原告会社の所有権取得後に契約期間が満了する者をCタイプ、賃貸借契約締結が右根抵当権設定後、本件差押登記の前であり、原告会社の所有権取得前に契約期間が満了している者をDタイプ、本件差押登記後に賃貸借契約を締結した者をEタイプと分類して、それぞれの住民について、対抗力ある賃借権を有しているか等の論点整理をした上、原告会社が賃貸人たる地位及び敷金返還義務を引き継ぐのか否かな把握していたことが認められ、この事実に照らせば、原告会社が住民をその前科や負債額等に基づいてAからDにランク分けしていたとは考えがたい。

(三) 被告は、仮に前記資料を作成したのが原告会社ではなく、訴外会社であったとしても、原告会社は、管理受託者である訴外会社のこのような行為を認識しつつ黙認していたのだから、公的性格の強い原告会社の責任は重大であり、原告会社も共同して作成したのと同視することができるから、これを原告会社が行ったと報道しても、その内容は真実であるといえると主張する。

しかし、仮に原告会社が公共性の強い機関であることや、原告会社が訴外会社と本件管理委託契約を締結していたことを考慮したとしても、原告会社が本件マンションの住民のプライバシーに関わる事項を調査してこれを記載した資料を作成したという事実と、訴外会社が右住民のプライバシーに関わる事項を調査してこれを記載した資料を作成し、原告会社がこれを知りつつ黙認したという事実とは全く異なり、右二つの事実が記事として別個に掲載された場合に、原告会社に関して一般の読者に対し与える印象も大きく異なり、原告会社の社会的評価を低下させる程度も変わるといえる。よって、被告の右主張のように解することはできない。

3  住民の追い出しとの記述の真実性

(一) 被告は、本件記事に掲げた四つの事例(前記第二の二の2の(一)の(2) に掲げる事例一ないし四)の内容は真実であり、これに照らせば、原告会社は、敷金の追加支払の請求、賃料の増額請求や嫌がらせと評価しうる手段を用いて、暴力団ではない普通の住民を追い出したといえ、<2>、<5>、<6>、<7>、<9>及び<10>の各記述は真実である、と主張する。

そこで、まず、事例一ないし四について検討する。

(二) 事例一(本件記事二五九ページ四段目「通知を受けた住民」の事例)について

弁論の全趣旨によれば、事例一に関し、本件記事の二五九ページ四段目六行目の「通知を受けた住民」は館山であると認められる。

そして、甲第三ないし五号証、乙第一四号証、第一五号証の一ないし八、乙第二七号証に弁論の全趣旨を併せると、館山に関して以下の事実が認められる。

(1)  館山は、平成七年一〇月一二日、内山建物との間で、期間を同月一六日から平成九年一〇月一五日までの二年間として、本件マンションの三一二号室の賃貸借契約を締結して入居した。敷金としては二一万六〇〇〇円を支払った。

(2)  平成八年八月二九日、有限会社桜商事(桜商事という。)が設立され、館山が代表取締役に就いた。館山は、内山建物に対し、右賃貸借契約を桜商事との契約に変更するよう申し出たが、内山建物がこれを拒絶したので、契約の名義は変更されなかった。しかし、内山建物が作成する賃料等の請求書及び領収書の宛名は桜商事となった。

(3)  平成九年一〇月、札幌地方裁判所は、原告会社の申立てにより、内山建物が館山に対して有する賃料債権を差し押さえ、債権差押命令正本を第三債務者「有限会社桜商事代表者代表取締役館山和紀」に送達した。同じころ、原告会社は、館山に対し、平成九年一〇月二九日付けの「入居者の皆様へ」と題する書面(乙第一五号証の六)を送ったが、同書面には、債権差押命令送達後に支払日が到来する賃料はどこへも支払わずに手元に保管しておかれたき旨、裁判所における手続が済み次第家賃の支払方法を伝える旨及び担当弁護士が薄木宏一弁護士(薄木弁護士という。)である旨などが記載されていた。

(4)  執行裁判所作成の本件マンションに係る物件明細書には、館山の主張する賃借権は差押後に賃貸借の期間が満了しており、引渡命令の対象となると記載されていた。原告会社は、右記載に基づいて、館山の賃借権が消滅していると判断し、館山に対して、訴外会社作成の平成一〇年五月一三日付け「賃貸借契約の継続について」と題する書面(甲第四号証)を送付した。同書面には、本件マンションの所有権を取得した原告会社と賃貸借契約を継続するには敷金を新たに差し入れること等が必要である旨が記載されていた。館山は、薄木弁護士に対して電話をかけ、なぜ敷金を支払う必要があるのか尋ねた。薄木弁護士は、館山に対して、物件明細書上、館山に対して引渡命令も可能であり、原告会社が館山と改めて賃貸借契約を締結しなければ、館山を無権原状態で使用させることになり、それは不可能なのであり、退去せざるを得ない状態となること、また、原告会社が敷金を引き継がないことは明白であり、新たな賃貸借契約を締結する前提として改めて敷金を入れてほしい旨の説明をした。

(5)  同年六月ころ、館山は、原告会社から同年三ないし六月分の家賃支払を請求された際に、訴外会社の担当者を訪れ、敷金支払義務について交渉し、敷金を支払うつもりがないことを伝えた。右担当者は、原告会社の代理人である弁護士に尋ねると回答した。

(6)  原告会社の代理人弁護士の会議において、館山の賃借権につき、内山建物の報告書により、館山が桜商事を設立してその代表取締役に就任し、契約自体は変更されていないものの、賃料の支払等は桜商事が行っていることが明らかになり、協議の結果、居住者に有利に解釈しうる余地があればそのように解釈すべきということで、本件マンションの差押登記の前である桜商事設立時に賃貸借契約が更新されたものとして取り扱い、更新により期限の定めのない賃貸借になり、短期賃借権としてその範囲内で賃借人が原告会社に賃借権を対抗できると解することとした。そして、原告会社は、訴外会社の担当者を通じて、館山に対し、敷金を差し入れなくてもよいと連絡した。

(7)  同年七月ころ、館山は本件マンションを退去した。その後しばらくして、館山に対し、敷金一万五〇〇〇円が返還された。

(三) 事例二(本件記事二六〇ペジ一段目一八行目以下の「老夫婦」に関する事例)について

右老夫婦(乙夫婦という。)に関しては、弁論の全趣旨により、以下の事実が認められる。

(1)  乙夫婦は、本件差押登記が経由された後である平成九年一〇月に本件マンションに入居した。

(2)  原告会社は、平成一〇年四月ころ、乙夫婦に対し、内山建物との賃貸借契約は本件マンションの所有権を取得した原告会社には引き継がれないこと、乙夫婦が原告会社と新たに賃貸借契約を締結するのであれば、原告会社に敷金を差し入れる必要があることを連絡した。

(3)  右(2) の連絡を受けた後、乙夫婦は、本件マンションを退去した。

(四) 事例三(本件記事二五九ページ五段目二九行目以下の「ススキノでスナックを経営する別の住民」の事例)について

弁論の全趣旨によれば、右の「住民」は吉田であることが認められる。そして、甲第一一号証、第一二号証、乙第一三号証、第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  吉田が内山建物と締結していた、本件マンションの七〇五号室に係る賃貸借契約は、平成八年に法定更新され、吉田の賃借権は、短期賃借権として、その範囲で原告会社に対抗することができた。

(2)  吉田は、本件マンションに母親と居住していたが、平成九年一二月ころ、吉田の娘が出産のため吉田のもとに戻ってくることになり、従前居住していた部屋では手狭となる事態が生じた。そこで、吉田は、本件マンション内のより広い部屋に移ることを希望し、その旨内山建物に申し入れたところ、内山建物は、平成一〇年三月に空き部屋が出るので、その際にはその部屋に移ってよい旨回答した。ところが、本件マンションの所有権が原告会社に移転した後には、原告会社及び訴外会社は、吉田が部屋を移ることを認めなかった。

(3)  同年四月一五日午前三時ころ、吉田は、仕事場に鍵を置いたまま帰宅してしまい、寝ている母親を起こして鍵を開けてもらうのは忍びないと考え、訴外会社に電話をかけて鍵を開けてもらうことにした。訴外会社の担当者は、合鍵の作成とマンションまでの出張の費用が二〇〇〇円かかることを伝えると、吉田はこれを了承した。右架電の約一〇分後、右担当者が本件マンションに到着し、吉田に合鍵を渡し、右二〇〇〇円及び消費税相当額一〇〇円の合計二一〇〇円を吉田から受領した。吉田は領収書にサインをした。

(4)  同年五月ころ、吉田は本件マンションを退去した。

(五) 事例四(本件記事二六〇ページ二段目・三段目に記述のある事例)について

弁論の全趣旨によれば、事例四は福島に関する事例であることが認められる。そして、甲第六ないし八号証、乙第一七号証の一ないし三六、第二四号証の一に弁論の全趣旨を併せれば、以下の事実が認められる。

(1)  福島は、平成九年八月一五日、内山建物との間で、期間を同日から二年間、賃料を月額五万円、毎月末日限り翌月分を支払うとの約定で、本件マンションの一〇〇二号室の賃貸借契約を締結した。その際、共益費を別途支払う旨の合意はされなかった。

(2)  福島は内山建物の従業員であったが、平成一〇年二月一五日に退職した。福島の内縁の夫であり、福島と右部屋に同居していた伴も、同じく内山建物の従業員であったが、同年四月一五日に退職した。

(3)  右一〇〇二号室は三LDKであったが、原告会社が本件マンションの所有権を取得した時点において、右部屋と同じ一〇階の他の三LDKの部屋(三室)の賃料はそれぞれ一三万七〇〇〇円、一四万二〇〇〇円、一四万七〇〇〇円であった。また、福島と同じく平成九年に本件マンションの三LDKの部屋に入居した者(三人)の賃料は、それぞれ一一万七〇〇〇円、一三万七〇〇〇円(二人)であった。また、右の各人を含め、本件マンションの三LDKの部屋に居住する住民は、共益費として月額一万三〇〇〇円を支払っていた。

(4)  原告会社は、福島に対し、同年五月一二日付けの同原告代理人弁護士大久保誠(大久保弁護士という。)名義の内容証明郵便を送付し、福島の賃料が低額にすぎる、これは福島及び伴が従前内山建物の従業員であったことから福利厚生の一環としてそのような契約を締結したと推測されるが、右両名は既に内山建物を退職しており、原告会社としては他の居住者との関係上一部居住者のみに不当に低額な賃料で賃貸することはできず、今後も居住を希望するのであれば適正な賃料及び共益費を支払う必要があるとした上で、同年四月分以降、賃料を月額一〇万円、共益費を月額一万三〇〇〇円に増額して支払うよう求め、併せて一週間以内に支払がなく、かつ、同弁護士あるいは訴外会社に何らの連絡もないときは札幌簡易裁判所へ賃料増額の調停申立てを行う旨通告した。これに対し、福島は野田信彦弁護士(野田弁護士という。)に原告会社との交渉を委任し、以後大久保弁護士と野田弁護士とが賃料の額や支払方法について交渉した。同月二一日ころ、訴外会社は、福島に対し、賃料が月額一〇万円、共益費が月額一万三〇〇〇円であることを前提とする請求書を送付した。右請求書には、「異議申立ては弁護士にして下さい。」と付記されていた。

(5)  福島は、同年四月分以降の賃料を支払っていなかったが、同年六月一五日、大久保弁護士あてに、最大限支払える額であるとして、五万円を送金した。

(6)  賃料の額や支払方法について合意に至る前に、福島は、野田弁護士に対して支払を約した弁護士報酬を支払うことが困難になったとの理由で、野田弁護士との委任契約を解除した。野田弁護士は、同月一九日付けの書面で、その旨を大久保弁護士に伝えた。

(7)  同年七月初旬ころ、訴外会社の担当者井瀧某は、福島に対し、賃料が月額一〇万円であることを前提に、未払賃料として四三万四七七二円を同月一五日までに支払うよう求め、支払がなければ賃貸借契約を解除し退去してもらうこととなる旨記載した、督促状を送付した。福島は、札幌市市民局市民生活部消費者センター及び北海道石狩支庁建設指導課指導審査係に対し、原告会社が所有権を取得した後、賃料を月額一一万三〇〇〇円と一方的に決められた、管理会社である訴外会社の担当者は強引に賃料の不足分を要求し、事情も聞いてくれない等と相談し、北海道石狩支庁建設指導課指導審査係は、訴外会社に対して、福島の述べるとおりの事実があるなら対応を改めるように電話で指示した。

(8)  福島は、同年七月一三日、大久保弁護士に対し、五万円を送金した。

(9)  福島と大久保弁護士は、同年八月二五日に面談した。福島は、その経済状態が苦しい旨を説明し、未払賃料を一括で支払うことはできない、少しずつでも支払間隔を詰めていって、早期に完済したいと述べた。これに対して、大久保弁護士は、賃料の増額について話はまとまっていないが、少なくとも福島において従前の月額五万円の賃料の支払義務は免れないところ、月額五万円の賃料についても六月分から八月分まで一五万円分の未払いがあることを伝えた。

(10) 福島は、同年九月二日、五万円を訴外会社に支払った。大久保弁護士は、原告会社及び同原告代理人弁護士らと協議の上、福島が月額五万円の賃料についても滞りなく支払うのは困難であると判断し、同月九日付け内容証明郵便により、月額五万円の賃料の七月分から九月分まで合計一五万円を同月二四日までに支払うよう催告し、同日までに支払わなければ賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。しかし、福島は、同日までに一五万円を支払わなかった。

(11) 訴外会社は、福島に対して、同月末ころ、賃料が月額一〇万円、管理費が月額一万三〇〇〇円であることを前提として、未払額を算定し、同年一〇月分の賃料と併せて六九万〇二五一円を請求する旨の請求書を送付した。

(12) 福島は、同年一〇月一日訴外会社に対し、五万三〇〇〇円を支払った。しかし、原告会社は、同月二一日、札幌地方裁判所に対し、福島を被告とし、前記契約解除に基づく右居室の明渡し、並びに未払賃料及び原告会社が支払った福島の水道料金の立替金の支払を求める建物明渡等請求訴訟(札幌地方裁判所平成一〇年(ワ)第二五九〇号)を提起した。

(13) 福島は、右訴訟係属中、原告会社に対して左記の金員を支払った。

平成一〇年一一月六日 二万二〇〇〇円

同月一一日      四万円

同年一二月三日    二万五〇〇〇円

同月八日       四万円

同月一〇日      一万〇七六六円

同月一一日      四万三〇〇〇円

同月二八日      一万二〇〇〇円

原告会社は、右金員を、立替金、未払賃料及び賃料相当損害金の順に充当した。

(14) 福島は、同年八月二五日の前記面談の際に原告会社との間で未払賃料は分割で支払う旨の合意が成立したと抗弁したが、札幌地方裁判所は、平成一一年一月二九日、被告に対し、居室の明渡しと、確定賃料相当損害金二万八〇〇〇円及び平成一一年一一月二五日から明渡し済みまでの遅延損害金を支払うよう命ずる判決を言い渡した。

(六) 以上に認定した事実を前提に、<2>、<5>、<6>、<7>、<9>及び<10>の各記述について検討する。

(1)  まず、本件マンションの住民が内山建物との間で締結した賃貸借契約に係る賃借権を原告会社に対抗することができないのであれば、当該住民には本件マンションの居室の占有権原はなく、居住を続けるためには、原告会社との間で新たに賃貸借契約を締結する必要がある。そして、建物の賃貸借契約に際しては、賃借人が賃貸人に対して一定額の敷金を支払うのが一般である(公知の事実)から、前記一に認定の原告会社の目的や性格、あるいは本件マンションの住民が普通の市民であり、不良債権を抱えた住宅金融専門会社やその債務者と無関係であるなどという事情を考慮しても、それ故に、原告会社が本件マンションの住民と新たに賃貸借契約を締結するに際して敷金の支払を求めたことそれ自体を不当であるとはいえないし、かえって、原告会社の性格に照らせば、住民から適正な賃料や敷金の支払を受けることが要求されているということができる。

(2)  事例一については、前記(二)に認定した事実から、本来は、館山はその賃借権を原告会社に対抗することができず、そこで原告会社は、原則どおり、館山に対して、新たに賃貸借契約締結の申し出をし、同時に敷金の支払を求めたこと、しかし、途中で契約当事者を桜商事として契約が更新されたと解する余地があり、そのように解すれば賃借権は短期賃貸借の限度で原告会社に対抗することができることから、原告会社としては、右のように館山に有利な解釈を採用して処理することとしたことが認められる。したがって、事例一をもって、住民に対する敷金支払の請求が法的根拠に基づいていないということはできないのであって、館山が敷金支払を強く拒んだために原告会社が館山の敷金支払を宥恕したのだとも認められない。そして、原告会社の代理人弁護士が館山に対して、敷金を支払わなければ本件マンションを出ていくことになる旨の発言をしたことは認められるものの、それは法的には館山が新たに原告会社と賃貸借契約を締結する必要があり、その際に敷金を支払う必要があって、館山が敷金を支払わなければ賃貸借契約が締結されないから、本件マンションを退去せざるを得なくなる旨を説明したものと認められ、右発言は追い出しを目的とする恫喝であるとはいえず、右発言をもって、原告会社が館山を追い出すための手段として敷金の追加支払を請求したと推認することもできない。そして、他に、原告会社が館山に対して行った敷金の支払要求が、館山を追い出すための手段である、あるいはそのように評価してよいと認めるに足りる証拠はない。

(3)  事例二は、前記認定事実によれば、要するに、乙の賃借権は原告会社に対抗することができず、原告会社が乙に新たに賃貸借契約を締結することを申し入れ、その際に原告会社が乙夫婦に対して敷金を支払うよう求めたということであり、原告会社の性質や目的に関する事情及び乙に関する事情からすれば右敷金支払請求が正当であることは(1) のとおりであり、他に原告会社の敷金支払請求が、乙夫婦を追い出すための手段である、あるいはそのように評価してよいと認めるに足りる証拠はない。

(4)  事例三については、一般的に、原告会社が本件マンションの所有権を取得した直後の時点で、管理の都合から、本件マンション内における部屋の移動(すなわち、従前の居室についての賃貸借契約の合意解約と明渡し及び新たな居室についての賃貸借契約の締結と引渡し。)を認めなかったことや、深夜に合鍵を作成して持参した訴外会社が費用及び消費税相当額を徴収することが、マンションの所有者や管理会社の対応として不当であるとはいえない。そうすると、仮に、居住者に対するサービスとしては、所有者が内山建物であった時期に比べて低下したと評価しうるとしても、これをもって直ちに原告会社や訴外会社の各対応が吉田に対する嫌がらせの意図をもってされたと推認することはできないし、客観的にも、当該対応を吉田を追い出すための嫌がらせと評価することもできない。そして、他に原告会社や訴外会社の吉田に対する対応が、吉田を追い出すための手段である、あるいはそのように評価してよいと認めるに足りる証拠はない。

(5)  事例四について、福島の賃料が五万円と他の同種の部屋に比べて格段に低額であったことからすれば、原告会社が、福島と伴がかつて内山建物の従業員であったために賃料が低額に抑えられていたと判断したことが不当とはいえない。札幌市市民局生活部消費者センターの相談担当者も、その賃料額などから社宅と判断される要素がある旨の認識を示しているところである(乙第一七号証の一九)。そうすると、原告会社が、福島に対して、他の住民との公平の観点から、他の同種の部屋の賃料と同程度の賃料を支払うよう求めたことには合理的な理由があったといえるから、これをもって、福島が元内山建物の従業員であったことによる不当な差別であるとはいえない。また、遡って値上げした賃料を支払うよう求めたことも、値上げした賃料を支払わなければ直ちに退去を求めるという内容ではなく、値上げの通知において、その後に札幌簡易裁判所に賃料増額の調停を申し立てる手続を踏むことを明らかにしている上、通知が福島に到達した後一週間以内に大久保弁護士にも訴外会社にも連絡しなかった場合に限り右調停申立てをする旨も記載されていることに照らせば、この措置を不当とはいえず、これが福島に対する精神的圧迫を加えるための手段であると評価することもできない。そして、その後は、福島は一旦弁護士を交渉の代理人として選任しながらこれを解任したり、賃料を月額五万円としてもその支払が遅れ、三か月分も滞納するなどしていたのだから、原告会社が福島に対して契約解除の意思表示をしたこと、右解除を前提として建物明渡訴訟を提起し、福島から一定の支払はあったが勝訴判決まで得たことについても、これを不当ということはできない。

(6)  以上の検討の結果によれば、事例一ないし四の事実をもって、原告会社が、敷金の追加支払請求や賃料の増額請求を手段として、あるいは嫌がらせと評価することができる行為によって、本件マンションの普通の住民を追い立てていたとは認められない。仮に、右各事例に係る住民らが、原告会社は自分を追い出すために嫌がらせや強圧的手段を用いていると感じたとしても、それは一般的評価として原告会社の行為をそのように評価できるということにはならず、各事例に関する前記検討の結果を覆すものではない。そして、他に原告会社が住民を追い立てていたと認めるに足りる証拠はない。

4  賃借権が保護されている旨の記述について

(一) 前記第二の一の2の(一)の事実に乙第二六号証を併せれば、本件マンションは内山建物所有であったが、平成元年九月二八日及び平成二年四月二〇日、本件マンションに、根抵当権者を第一住宅金融株式会社、債務者を内山建物とする一番根抵当権及び二番根抵当権が設定され、それぞれ同日に各根抵当権設定登記が経由されたこと、平成八年一〇月一日、債権譲渡を原因として原告会社が右各根抵当権を取得し、平成九年六月一三日に二番根抵当権につき、同年七月一四日に一番根抵当権につき、それぞれ根抵当権移転の登記が経由され、原告会社が右各根抵当権に基づいて競売を申し立て、札幌地方裁判所が競売開始決定をし、同年九月一九日本件差押登記が経由されたこと、原告会社は右競売手続において同裁判所の売却許可決定を受け、平成一〇年三月二三日本件マンションの所有権を取得し、同日競売による売却を原因とする所有権移転登記が経由されたことが認められる。

しかし、前記第二の一の3の(三)に掲げた中殿弁護士の見解は、本件記事を通読する一般の読者には、本件マンションの住民は、少なくとも裁判所が本件マンションを差し押さえる前から居住していたのであれば、その賃借権を原告会社に対して主張することができるとの内容であると理解されるといえるところ、右に認定の事実のとおり、本件マンションに設定された根抵当権に基づいて原告会社が競売を申し立てた本件においては、本件差押登記がされる前に賃借権を取得していた賃借人がすべて原告会社に対して賃借権を対抗できるわけではないから、中殿弁護士の右見解の記載は本件マンションに関する記載としては不適切であり、誤りといえる。しかも、右記載に引き続く<8>の記述は、「つまり、」と中殿弁護士の右見解を要約する形式をとりつつ、「法的には住管機構側が強制的に一般住民を追い出すことはできないことになっている。」と、原告会社が住民の誰をも退去させることはできないと解される記載をしており、<8>の記述にも法的な誤りが含まれている。

(二) 被告は、本件記事は、原告会社が、敷金の追加請求や嫌がらせ、恫喝等の強制的手段を用いて、本件マンションの「善意の住民」の追い出しを図って、彼らを泣かせている点を批判することに主眼があるなどとして、住民の賃借権が保護されるかどうかについては、被告が真実であると証明すべき主要な点ではないと主張する。

しかし、前記第三の二の2の(一)のとおり、中殿弁護士の右見解及びそれに引き続く<8>の記述を含む本件記事を通読した一般の読者は、原告会社は、法的には本件マンションの住民を退去させることができないにもかかわらず、敷金の請求や嫌がらせ、恫喝等の強制的手段を用いて、住民を追い出しているという印象、ひいては、原告会社が違法行為をしているとの印象を受けると認められるのであり、これによって、原告会社の社会的評価がより大きく低下したといえる。したがって、住民の賃借権が保護されているかどうか、すなわち、住民が賃借権を原告会社に対抗することができるかなどの、住民と原告会社との権利関係に関する記載が、被告が真実であると証明すべき主要な点でないとはいえない。仮に被告が、本件記事の作成に際して、賃借権が保護されている住民の追い出しという点ではなく、「善意の住民」が追い出されているという事実に重点を置いて原告会社を批判する意図を有していたとしても、本件記事が一般読者に対して与える印象が前記のとおりである以上、被告の前記主張を採用することはできない。

5  以上のとおり、被告の争点二に関する主張は理由がない。

四  争点三について

1  前記第二の一の事実に証拠(後掲する。)を併せれば、本件記事に関する取材の経緯について、以下の事実が認められる。

(一) 被告は、その発行する週刊ポスト平成一〇年一〇月三〇日号(同月一九日発売)に、「中坊公平住宅金融債権管理機構社長は血税取り返しの『英雄』ではない!」との見出しを掲げた記事(第一記事という。)を掲載した。原告ら代理人弁護士らは、被告に対し、同月二七日付け内容証明郵便で、週刊ポスト誌及び新聞紙上に訂正と謝罪の記事を掲載することを求める催告書を送付したが、週刊ポスト編集長坂本隆は、原告中坊に対し、訂正や謝罪の記事を掲載する必要はないと考える旨の同年一一月九日付け回答書を送付した。これを受け、原告らは、同月二〇日東京地方裁判所に対し、被告を相手として、右記事が原告らの名誉・信用を毀損したと主張して、謝罪広告等を求める訴訟を提起した(当庁平成一〇年(ワ)第二六八三〇号謝罪広告等請求事件)。(甲第一四号証、第一五号証、乙第七号証の一、二、第八号証)

(二) 同年一一月二七日ころ、被告の週刊ポスト編集部は、第一記事の読者と名乗る人物から、本件マンションにおいて、競売手続でその所有権を取得した原告会社が住民に対し明渡しを執拗に求めており、まるで悪徳地上げ業者のようである、原告会社の所有権取得後八か月間で二〇世帯以上が退去した、原告会社は住民全員の個人情報を訴外会社等に配布し、その情報の中には負債や前科等も含まれていた、という内容の情報の提供を受けた。右情報の提供者は、その氏名及び連絡先を明らかにしていた。週刊ポストの編集部員三井は、同誌の記者の武冨に対して、右情報提供者に連絡を取るよう指示した。武冨は、情報提供者から、右情報に関する話を聞き、また、本件マンションに居住する伴の紹介を受けた。武冨は、当該情報は取材に値すると判断し、その旨三井に報告したところ、三井は同情報について取材を進めることを決め、町田喜美江記者(町田という。)を現地取材に赴かせた。(乙第二一号証の一、第二二号証、第二三号証、証人三井、証人武冨)

(三) 町田は、同月三〇日から同年一二月二日にかけて、札幌において、伴、本橋、館山、吉田らに取材した。このとき、伴からは、福島と原告会社との訴訟に出された訴状や答弁書、準備書面等の写しを入手した。また、館山からは、同人と原告会社や訴外会社との交渉の経緯とともに、本件マンションの住民をABCDにランク分けした資料を訴外会社の担当者が所持していた、Dランクには暴力団関係者や何をしているのかよく分からない住民の名があったが、館山もDランクにされていたとの話を聞いた。この札幌での取材中に、町田は、訴外会社の従業員に対しては取材しなかった。町田は、東京に戻った後、取材内容をデータ原稿にまとめた。(乙第一五号証の八、第一六号証、第一八号証の一、第一九号証の一ないし三、第二一号証の一、証人三井)

(四) 武冨は、同月二日、伴と本橋に対して電話で取材した。このとき、伴は、管理人室に前科が記載された資料が貼ってあった旨述べ、本橋は、本件マンションの管理人室に、住民が前科何犯であるとか、暴力団関係者である等という事実が記載された表が貼られており、本橋自身についてはその負債額が記載されていた旨述べた。また、両者とも、右資料又は表は原告会社が作成したと考えているとも述べた。(乙第一八号証の一、第二二号証、第二三号証、証人三井、証人武冨)

(五) 同月一日及び二日の両日、三井は、本件マンションの管理に関して取材する意図で、原告会社の秘書室長であった内藤幹に対し取材を申し入れたが、同人は被告の報道姿勢には問題があるとの態度を示し、原告会社の代理人弁護士と協議して対応するとして、取材内容を明らかにするよう三井に求めた。これに対して、三井は、取材内容によって取材に応じるか否かを決定するのは不当である旨述べ、内容を明らかにして取材を申し入れることはせず、結局、被告から原告会社に対して、本件マンションに関しての取材はされなかった。(甲第一九号証の一、二、乙第二二号証、証人三井)

(六) 三井は、本件マンションの所有者が変わったからといって住民が敷金を支払う必要があるのかどうか疑問をもち、稲毛ゆか記者に指示して、中殿弁護士に電話で問い合わせをさせた。これに対し、中殿弁護士は、質問の前提となる事実関係を明確に把握したいと述べたので、三井らは、中殿弁護士に対し質問を記載した書面をファクシミリで送付した。右書面には、設例として、A(住民)がX(マンションの前所有者)と賃貸借契約を締結しており、締結時に敷金二〇万円を支払っていたところ、YがXに対する金銭債権の譲渡を受け、Xがその債務を弁済できないため、Yが「マンションを競売にかけ、自己競落」した事例を挙げ、このときに敷金の関係はどうなるか、契約条件の変更はあり得るのか等に関しての質問が記載されたが、Xの所有する建物に抵当権が設定されているとか、競売手続が抵当権の実行によるということは書かれなかった。中殿弁護士は、一二月二日、週刊ポスト編集部に対し、右設例が強制競売の事例であることを前提として、Aが建物に対する差押えの前から賃借して居住していたのであれば、その賃借権をYに対抗でき、Yには賃貸人たる地位が移転するから、原則として敷金返還義務もYに移転する旨の回答をファクシミリで送付した。(乙第二〇号証の一ないし三、第二二号証、証人三井)

(七) 同月三日、週刊ポスト編集部は、本件マンションの住民について、それぞれにAからEの記号を付した資料の写し(乙第一三号証)を入手した。その個人的情報が記載されている住民もあったが、その記載の中には、「夜逃げ」「内山元代表・使用貸借・無償貸借」「内山元社員」「再契約済」「引渡済」「退去済」などというもののほか、「前科七犯」(一名)、「稲川会平組組長」(一名)、「山口組大道相談役」(一名)、「山口組・川口一家」(一名)というものもあった。(乙第一三号証、第二二号証、第二三号証、証人三井、証人武冨)

(八) 週刊ポスト平成一〇年一二月一八日号(一二月七日発売)に掲載されることになった本件記事の本来の締切は同月二日であったが、同月三日に前記資料の写しを入手した後、三井は武冨と本件記事の構成について協議して、記事の冒頭に、原告会社が本件マンションの住民の前科等を記載した資料を作成してそのプライバシーを侵害していることを掲げることなどを決めた。同日武冨が本件記事の元原稿を作成し、これを三井に渡して、三井が最終的に記事をまとめ上げた。(乙第二二号証、第二三号証、証人三井、証人武冨)

2  被告は、人の前科や、所属する暴力団名、暴力団内での役職等は、一般には知ることはできず、一般の不動産管理会社である訴外会社も知りえない情報である一方、原告会社は警察から情報を得ることができたのであるから、原告会社が前科等の記載された資料を作成したとの事実を真実であると信じるにつき相当の理由があったと主張する。

確かに、人の前科や暴力団所属に関する事実は、第三者には容易に知りえないとはいえようが、そのような事実関係を把握、認識する可能性が絶対にないとは解されない。右資料の写し(乙第一三号証)には八五の居室について入居者名が記されているが、そのうち前科が記載されているのは一名のみであるし、暴力団関係者である旨が記載されているのは三名のみであって、そのような情報は新聞、テレビ及び雑誌等の事件報道の際に公にされることもあり、知人、関係者からの情報提供もありうるのであるから、右資料の写しに右四名に限って右のような事実が記載されていたとしても、ある会社がわざわざその事実を調査し、把握して、これを記載した資料を作成したとか、あるいはそのような調査を行って資料を作成したのが、一般人や一般の民間会社ではないと直ちに判断してよいとはいえないし、そのような推論は合理的ではない。

また、原告会社の中に警察の関係者がいるとか、原告会社に出資した預金保険機構が債権回収のために警察に協力を求めることができる、あるいは原告中坊が本件マンションの視察の際に北海道警察が警護したなど、原告会社と警察との間に接触があったとしても、それだけで、原告会社が本件マンションの管理のために住民に関する前科等の情報を警察から取得していた、あるいは取得することができたと推測することが相当であるとはいえない。更に、前記1の(四)に認定のとおり、被告は、本橋からの取材において、資料には本橋の負債額まで記載されていたとの話を聞いているが、一般の個人の負債額については警察は通常把握していないといえるし、預金保険機構が特定住宅金融専門会社の債権回収のために警察に協力を求めることができるからといって、その子会社である原告会社が、特定住宅金融専門会社に債務を負担していた債務者所有のマンションの住民の負債額に関する情報を警察から得ることができたなどとはいえない。そして、他に、警察が原告会社に対して、本件マンションの住民に関する情報を提供したと認めるに足りる証拠はない。

本件マンションに係る事実に関して原告会社から被告への取材がなされなかったこと及びその経緯は前記1の(五)のとおりである。そうすると、被告は原告会社に対して取材内容を述べておらず、原告会社は、本件マンションに関する取材であるとの理由で被告の取材を拒絶したのではないから、原告会社の被告に対する右のような対応は、原告会社が住民の前科等を調査してこれを記載した資料を作成したことを疑わせる事情とはいえない。また、原告会社の対応の当不当は、原告会社が身上調査資料を作成したことが真実であると信じたことの相当性とは別の問題である。

そして、被告は、本件マンションの住民の取材において、前科等を記載した資料が本件マンションの管理人室に掲げられていたとか、訴外会社の担当者が所持していたとの話を聞きながら、訴外会社の関係者に対する取材を行わず、訴外会社に対し、右のような資料が存在するのか、存在するとして誰がどのような手段を用いて作成したのか、訴外会社が本件マンションの管理に際してその住民に関する調査を行っていたか等について、何らの事実確認もしないまま本件記事を掲載している。

前記1の(四)に認定のとおり、被告の取材において、伴及び本橋が、資料は原告会社が作成したと考える旨述べたことは認められるが、同人らが右取材においてそのように考える根拠を明らかにしたとは認められない。また、前記1の(三)及び(四)のとおり、被告の取材に対し、館山は、住民をAからDにランク付けした資料を見たとか、館山はDにランク付けされていたと述べ、本橋は、自分の負債額まで記載されていたと述べているが、被告の週刊ポスト編集部が入手した乙第一三号証の資料では、住民に付されている記号はA、B、C、D、Eの五つで、館山にはBの記号が付されており、本橋について負債額は記載されておらず、他に負債額が記載された住民もいないのであって、右取材内容と齟齬がある。そうすると、被告としては、館山、本橋や伴などに再び取材して、各人が見たという資料に関する事実の再確認を行い、あるいは訴外会社に対して取材すべきであったのに、これを行わなかったのである。

以上によれば、被告が、原告会社が前科等の記載された資料を作成したことが真実であると信じるにつき相当の理由があったとはいえない。

3  被告は、一般には強制執行と担保権の実行としての不動産競売とを区別して認識されていないから、被告の記者が、中殿弁護士に対して、強制執行との表現を用いて質問したことはやむを得ず、したがって、強制競売を前提とした中殿弁護士の見解に基づいて、法的には、原告会社が強制的に本件マンションの住民を追い出すことはできないことが真実であると信じたことには相当の理由があると主張する。

しかし、報道機関である被告の記者が、法的な知識が不十分であったことを原因として、本件マンションの取得の経緯と異なる前提の質問をして、その結果、本件マンションの住民と原告会社との権利関係について誤った認識をもち、法的には原告会社が本件マンションの住民を退去させることはできないと信じたとしても、これをやむを得なかったなどということはできない。乙第二一号証の一、第二六号証及び証人三井直也の証言によれば、取材に当たった町田は本件マンションの登記簿謄本を入手しており、右登記簿謄本から、原告会社が本件マンションの根抵当権を取得し、その後に原告会社の申立てによって本件マンションについて競売開始決定がなされて、差押えがされたという事実経過は明らかであり、被告の記者が、右の事実経過のもとでは原告会社と本件マンションの住民との権利関係はどうなるかについて調査したり、これをそのまま中殿弁護士に尋ねること、又は本件の経緯に即した事案を設例として中殿弁護士に質問することは可能かつ容易であった。

したがって、被告が、「法的には原告会社が本件マンションの住民を強制的に退去させることはできないことになっている。」ということを真実と信じるについて相当な理由があったとはいえない。

被告は、原告会社が取材を拒否したことも、同原告が右のとおり信じたことが相当である理由の一つとして主張するが、前記のとおり、原告会社への取材がなくても、本件における原告会社と住民との法的な権利関係を把握することは容易であったのであるから、本件マンションに関して原告会社の被告に対する取材が実現しなかったことやその経緯の如何は、右相当性の有無には関係がない。

4  以上のとおりであるから、争点三に関する被告の主張は理由がない。

五  争点四について

1  前記一ないし四における認定及び判断に照らせば、確かに、被告が本件記事を掲載した意図は、原告会社の業務の執行について問題を提起し、これを批判するところにあり、単に原告会社及び原告中坊を中傷するものではなかったと認められ、その意図自体は一般の読者にも窺い知ることができるといえるものの、本件記事は、原告会社が、敷金追加支払請求や恫喝などの強圧的な手口を用いて、法的には退去させることのできない本件マンションの住民を退去させているという印象を一般の読者に与え、原告会社及び同原告の指揮を執る原告中坊に対する社会的評価を低下させており、週刊ポスト誌の発行部数は九八万部とも推計され(争いがない。)、その影響力は決して小さくないこと、本件記事が掲載された週刊ポスト平成一〇年一二月一八日号については全国紙及び地方紙の新聞紙上に前記第二の一の4記載のとおりの広告が掲載されたこと(争いがない。)、前記第三の一に認定の原告会社の性格、その他本件に関する一切の事情を考慮すると、本件記事によって原告会社が被った無形損害の賠償としては二〇〇万円が相当であるというべきである。また、原告中坊については、これまでの認定及び判断のとおり、本件記事は、同原告が指揮する原告会社が右のような不当、違法な行為を行っているとの印象を一般の読者に与え、原告中坊の社会的評価を低下させたといえるが、原告会社の不当、違法な行為そのものを原告中坊が指揮したとの内容ではないこと、その他本件に関する事情も併せ考慮すると、原告中坊が被った精神的損害に対する慰謝料としては六〇万円が相当であるというべきである。

原告らは、謝罪広告の掲載をも請求するが、右の諸事情を総合的に考慮すれば、原告らに対する各慰謝料の支払のほかに、被告に対して謝罪広告の掲載まで命ずるまでの必要性は認められない。

2  なお、乙第一〇号証によれば、被告は、週刊ポスト平成一〇年一二月二五日号(本件記事が掲載されたのは週刊ポスト同月一八日号であるから、その翌週号であると認められる。)において、「問題物件の二八億円高値取得は中坊公平社長から指示された」と題する記事を掲載し、同記事の三ページ目の上部の枠で囲った箇所に、中殿弁護士が寄稿した文章を載せており、右文章には、本件記事における中殿弁護士の見解の記述は、原告会社が一般の強制執行をした場合だけに当てはまる話であり、抵当権に基づく競売の場合は、賃貸借契約締結前に抵当権が設定されていれば強制的な立退請求が可能である、との記載が含まれていることが認められる。しかし、右証拠によれば、中殿弁護士の右寄稿文は、「<特別寄稿>・弁護士中殿政男」「中坊社長に『英雄のおごり』はないか」との見出しが付されており、本件記事の中で厳しすぎる追い出しの不当性を指摘した中殿弁護士が改めて原告会社の姿勢に疑問を提起したという文章で紹介されており、寄稿文それ自体も全体として原告会社及び原告中坊に対する批判の論調であること、本件記事では中殿弁護士の見解はあくまで「賃貸契約の原則」を明らかにするために掲載されたにもかかわらず、右寄稿文の紹介が右のような文章でなされているのであって、中殿弁護士の見解が不適切であったことを明らかにする意図がみられず、その他中殿弁護士の右文章及び一二月二五日号の右記事全体においても、本件記事に誤った記述があったとは明確に書かれていないことが認められ、これらの事情に照らせば、一二月二五日号に中殿弁護士の前記内容の寄稿文が掲載されたことによって、本件記事により毀損された原告らの名誉や信用が回復したとか、原告会社が被った無形の損害又は原告中坊が被った精神的損害が慰謝されたということはできない。

第四結論

以上の認定及び判断の結果によると、原告らの本件請求は、原告会社に対して二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うこと、及び原告中坊に対して六〇万円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度では理由があるのでその限度でいずれもこれを認容し、その余は理由がないのでいずれもこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉等 裁判官 水野正則 裁判官西森政一は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 渡邉等)

別紙<省略>

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